アイキャッチ画像撮影:鈴木すず
数多の名作を世に送り出し、アスリート達を支えてきたアシックス。現時点ではレーシングシューズ市場において後塵を拝してしまっていますが、少し前まではレースにおけるトップ層の足元はほぼ同ブランドが席巻していました。そんな古豪アシックスが満を持してリリースしたのがMETASPEED(メタスピード)シリーズです。本シリーズにはピッチ走法向けの「Edge(エッジ)」とストライド走法向けの「Sky(スカイ)」という2つのモデルがあり、本記事でレビューするのは後者。あの川内選手が本モデルのプロトタイプを履いて、びわ湖毎日マラソン2021で8年振りの自己ベスト更新を果たしたのは記憶に新しいところではないでしょうか。
そんな超話題作は、ナイキ一強のレーシングシューズ市場に風穴を空けられるのでしょうか。トラックレースからウルトラトレイルまで走り、年間数十足ものシューズを購う筆者が徹底レビューします。
「メタスピード スカイ」のディテールをチェック
撮影:鈴木すず
本モデルを手にした時にまず感じたのが、その驚くほどの軽さでした。その重量はなんと194g(28cmで計測)。ナイキの「ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%(以下ヴェイパーフライ)」が205gなので、それよりも11gも軽いという事になります。ランニングはある種の精神スポーツ。軽いという事実は、身体的には勿論ですが、メンタル的にもレース終盤の粘りに通じてくるものです。
ボリュームのある厚底でありながら、どのようなディテールでそのような軽さを実現したのでしょうか。早速見ていきましょう。
内側が透けるメッシュアッパー
撮影:鈴木すず
アッパーにはエンジニアードメッシュを搭載。エンジニアードメッシュとは、一枚の生地の中で編み方を変える手法です。本モデルでは、甲部分と側面一部は内側が透ける程に編みを粗くして通気性を高め、逆にソール周りや履き口、ヒール部分は編みを細かくする事でホールド感を確保しているのが分かります。
軽量で反発性に優れたミッドソール
撮影:鈴木すず
ミッドソールは、最も厚みがある山の部分で4.3mmでした(筆者実測)。ソールの外側に印字された「FF turbo」とは、アシックスの軽量フォーム材のなかで最も優れた反発性を発揮する「FF BLAST TURBO(エフエフ ブラスト ターボ)」の事。この素材をミッドソール全面に搭載しています。
爪先を反り上げたロードロップ
撮影:鈴木すず
ドロップとはソールの踵部と爪先部の厚みの差を意味しており、本モデルのそれは5mm。比較対象として、同ブランドの「ノヴァブラスト」は10mmで「メタレーサー」は9mmです。この数字が低い程、フォアフット(ミッドフット)接地での走りに向いており、重心を前方に持っていく事でスピードが出しやすくなる為、よりスピードランにマッチしてきます。
また、爪先を反り上げたガイドソール構造は、脚の屈曲を抑え、よりエコノミカルな走りをアシストしてくれるのです。
足にフィットする薄手のタン
撮影:鈴木すず
タンはフェイクスエードのような薄手の素材で、履き始めから足に優しくフィット。また内側にはパンチングが施されており、通気性もしっかり確保しています。
地面に向けてせり出したコバ
撮影:鈴木すず
ソールのコバを下に向けて広げる事により、厚底シューズが不得意とする安定性をカバーしています。
パンチングが施されたヒールカップ
撮影:鈴木すず
画像では分かりにくいですが、パンチングが施されたヒールカップにも柔らかく薄手の素材を採用しています。また傷みやすいヒールを補強すべく、踵の中心にはテープが縫い付けられています。
路面をしっかりと捕らえるアウトソール
提供:ASICS
アウトソールには、耐久性とグリップ性を備えたASICSGRIPアウターソールラバーを搭載。雨の路面も走ってみましたが、凹凸の無い路面でも滑りやすさは感じませんでした。
ソール全体に内蔵されたカーボンプレート
撮影:鈴木すず
かなり力を入れないとソールのどの部分も曲げられない事から、踵から爪先までカーボンプレートが内蔵されている事が分かります。この仕様が、接地から蹴り出しにかけての反発を実現しているのです。
【実走レビュー】ビルドアップで走ってみた
撮影:鈴木すず
筆者の足のサイズは足長27.4cm、足幅は標準を意味するEで甲の高さも標準、指先の形は人差し指が一番長いギリシャ型で、普段ナイキでは28.5cm、アシックスの「ノヴァブラスト」や「メタレーサー」では28cmを履いています。本作はややタイトめに感じ、他モデルよりもハーフサイズアップした28.5cmでジャストサイズ。足入れした時の印象は、ナイキの「ヴェイパーフライ」のようなグニュグニュとした柔らかさは無く、見た目よりも沈み込みが少なそうだなといった感じです。
さて、このようなディテールがどのようなインプレッションを生み出すのか、いざ実走!
サブ4ペース(5:41/km)
厚底カーボンシューズ特有の跳ねるような返しは、このペースでも既に感じられます。とは言うものの、オーガニックな反発性とでも言いましょうか、「ヴェイパーフライ」のような強い反発性ではなく、飽くまでもナチュラルなそれ。それでもちょっと気を抜くと10〜20秒/km程ペースが上がっているのには驚きです。また、コバを広げたディテールが奏功してか、接地時に厚底らしからぬ安定性を実感する事が出来ました。
サブ3.5ペース(4:58/km)
このペースになると、爪先のディテールが生きてくる感覚があります。スイートスポット(ソールにおける最適な着地点)も広く、ミッドフットで接地してもフォアフットで接地しても、最終的に蹴り出しを前方に推進してくれるカーボンパワーを実感。サブ4ペースと同様に、やはり気を抜くと10秒/km程ペースが上がってしまいました。
サブ3ペース(4:15/km)
筆者の走力はハーフマラソンのPBで1時間30分程なので、このペースは“真剣に走る”それになります。したがって、最初はちょっとキツさもありました。しかしリズムが乗ってくると、あまり力を入れなくてもオートマチックに脚が回転するような返しがあり、普段よりも余裕を持って走れた印象です。
着眼すべきは、「ヴェイパーフライ」のような速く走らされる感覚が無いのに、結果的にそれと同等に速く走れているというところ。ナイキとは違うアプローチでここまでの完成度を出す開発力に、さすがはアシックスと舌を巻きました。
【結論!】「メタスピード スカイ」はランニングシーンを変えられる
撮影:鈴木すず
アシックスの全技術が注ぎ込まれた本モデル、筆者としては次のフルマラソンはこれで勝負してみたいと思える秀作であると結論付けます!分かりやすく前方に弾き出される「ヴェイパーフライ」と、オーガニックに速く走れる「メタスピード スカイ」。どちらが優れたシューズだと容易にジャッジするのは早計で、それは実際にレースを走ってみなくては分かりません。また、その答えはランナーのタイプによっても変わってくるでしょう。ただ少なくとも、総じて「ヴェイパーフライ」と同レベルのポテンシャルがあるのは確か。
今まで当たり前に走れていたレースに参戦するのも容易ではなくなっているご時世ではありますが、「メタスピード スカイ」でPBを更新出来るよう、ふんどしならぬシューズの紐を締め直してトレーニングに励んでいきたいと思える逸品でした。
〈商品詳細〉
商品名:METASPEED SKY(メタスピード スカイ)
価格:27,500円(税込)
重量:199g(27.0cm)
サイズ:MEN/24.5〜30.5cm、WOMEN/22.5〜28.5cm
ASICS オフィシャルサイト
ITEM
ASICS / METASPEED SKY【メンズ】
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ASICS / METASPEED SKY【レディース】
ピッチ走法向けの「METASPEED EDGE」は2021年6月4日に発売!
今回紹介したメタスピード スカイは、ストライド走法のランナーに向けたシューズですが、ピッチ走法向けの「メタスピード エッジ」も2021年6月4日(金)より発売されます。
ランナーの走り方に合わせてシューズを選べるのが、メタスピードシリーズの魅力ですね。気になる方はぜひ公式サイトをチェックしてみてください。
「METASPEED EDGE」商品ページ
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