アイキャッチ画像提供:ぺんちゃん
あれ?あの人裸足で走ってない?
撮影:RUN HACK編集部
ある日の公園、いつものようにランニングをしていると、前から裸足で走ってくる人が…!
小学校のリレーでは、よく裸足で走っている人がいましたが、走ってくるのはどう見ても大人の男性。これは一体どういうこと?
気になったので、思い切って声をかけてみました!
安心してください、履いてますよ!
撮影:RUN HACK 編集部
裸足のように見えた足元。実は、「ワラーチ」という走るためのサンダルを履いていたようです。
ワラーチと言えば、ナチュラル志向のランナーの間でひそかに人気になっているサンダル。「もっと聞いてみたい!」と思い、詳しく教えてもらうことにしました。
今回お話を伺ったのは、自作ワラーチでランニングを続けている平田さん
撮影:RUN HACK編集部
今回お話を伺ったのは、ワラーチを自作してランニングを続けているという平田さん。最近では、ワラーチを自作するワークショップを開催するなど、ワラーチの良さを伝える活動もされているそうです。
普段は「ぺんちゃん」という愛称で親しまれているということなので、この記事でもぺんちゃんと呼ばせていただきます。
平田 大二(愛称:ぺんちゃん)
社会人になってからランニングを始め、ケガをきっかけにワラーチと出会う。自作ワラーチで積極的に長距離レースに挑戦し、ハセツネCUP、勝手T.D.T(自主企画160km)などを完走している。ワラーチのフルマラソンPBは3時間30分。現在は「chicken heart running team」に所属。
ワラーチって何?
ではさっそく、ぺんちゃんにワラーチについて教えてもらいましょう!
大丈夫ですよ。ワラーチで走っていると、いつも周りの視線を感じています。笑
ワラーチランナーあるあるなんですね。笑
そもそも、ワラーチって一体何なのでしょうか?
メキシコの先住民族が使用するランニングサンダル
提供:ぺんちゃん(2017年開催の山岳耐久レース「ハセツネCUP」出場の為に来日したララムリの女性[写真中央])
簡単に言うと、ワラーチは走るためのサンダルです。メキシコの先住民族であるララムリ(タラウマラ族)が履いていたサンダルがルーツですね。日本でも人気になった『BORN TO RUN』という本に登場するので、そこで知った人が多いかもしれません。
ITEM
BORN TO RUN 走るために生まれた ―ウルトラランナーVS人類最強の“走る民族
●著者:クリストファー・ マクドゥーガル
そうですね。トレランをやっている人のほとんどは読んでるんじゃないかな。笑
僕はこれを読んで完全に感化されましたね。
撮影:RUN HACK編集部(ララムリの結び方をしたワラーチ)
実は、ワラーチには色々な結び方があるんです。でも元祖はララムリの結び方であり、走るのに一番適していると考えています。だから僕は、彼らと同じように紐1本で結ぶやり方を推奨しています。
90歳になってもマラソン大会に出続けるための脚を作る「ワラーチ」
提供:ぺんちゃん(2017年開催の「ハセツネCUP」にもワラーチを履いて出場)
普通走るときにはランニングシューズを履いていますが、実際裸足で走れるものなのでしょうか?
実は、人間は元々裸足で走っていたんですよ。でもランニングシューズを履くようになって、足を保護してもらうことに慣れていくと、本来持っていたはずの足の力が弱くなってしまうんです。
なるほど。「足のために履いていたシューズが、実は過保護だった」とも言えるのですね。
まさにその通りです。もちろん、1分1秒を競うアスリートの世界には、最新テクノロジーを搭載したランニングシューズの恩恵があると思います。でも僕は、90歳になってもマラソン大会に出て、若者を抜かしていくおじいちゃんになりたい。ワラーチは、その為の足づくりができると考えています。
ワラーチを履くとどんな効果があるの?メリットとデメリットを教えて!
足本来の力を取り戻す役割があるというワラーチ。ワラーチを履くと体に多くの影響がありそうです。では、具体的にどんなメリット・デメリットがあるのか、さらに詳しく教えてもらいましょう。
メリット①:ケガの悩みが少なくなる
提供:ぺんちゃん(使い込まれたワラーチ)
元々ランニングは、自分の子供の幼稚園のパパ友に誘われて始めたんです。学生時代はテニス部で、走るのは得意な方だったので、最初は順調に走っていました。でも途中で腸脛靭帯(膝関節の曲げ伸ばしを行う重要な結合組織)を痛めてしまったんですね。走り方のフォームなんて習ったことはないし、原因もよくわからない。
腸脛靭帯炎はランナー膝とも呼ばれ、膝の外側部分の痛みで悩んでいるランナーは多いですよね。
たぶん、そこでつまづいてやめてしまうランナーはたくさんいると思います。僕も「なんでこんな思いをしないといけないんだ!」と、やめたくなったことが2回ほどありました。でも、その時にたまたま訪れた整骨院の先生が、ワラーチを使っているランナーだったんです。
そうなんです。その先生がワラーチを作ってくれて、今では僕のワラーチの師匠ですね。
腸脛靭帯炎は、ワラーチを履くようになって改善したということですか?
もちろん、すぐに良くなるわけではないので、ある程度時間が必要です。でも、ワラーチで自分の走りを改善していけば、ケガをしにくい体作りも期待できると思います。整骨院の先生も「ワラーチを教えると自分の仕事がなくなるんだけどね」なんておっしゃっていたんですよ。笑
本当は教えたくなかったかもしれませんね。笑
具体的には、ワラーチの何がその効果をもたらすのでしょうか?
実は、人間の身体能力って、みんなが思っている以上にすごいんですよ。
例えば、足のアーチ(土踏まず)には、着地の度にショックを吸収してくれる機能があります。でも、このアーチを支える機能を持つランニングシューズを履いてしまうと、本来持っている力が衰えてしまうんです。
なるほど!だから裸足感覚のワラーチで足を鍛えることが大切なんですね!
メリット②:フォームが良くなる
提供:ぺんちゃん
今のお話を聞く限りでは、走るフォームも良くなっていくということでしょうか?
そうですね。かかとから着地すると衝撃がダイレクトに体に響いてしまうので、自然と完璧なフォアフットに近づいていくんですね。
はい。自分でフォームを改善しようと思っても、何をどう変えたらいいのか、正直わからないですよね。でも、ワラーチを履いていると、間違ったフォームをしたときに、それを痛みとして知らせてくれる。痛みが出たら「これではダメなんだ」と体が気づいて順応していく。だから「強制的にフォームを修正してくれる」というのが、ワラーチの一つの特徴だと思います。
メリット③:開放感も抜群
提供:ぺんちゃん
その他に、ランニングシューズとの違いはありますか?
シューズに比べると、開放感があるというのもメリットですね。シューズの幅が合わないという心配もありません。シューズを長い時間履いていると、靴ズレのストレスが大きいですよね。ワラーチを初めて履いたら、その身軽さにびっくりすると思いますよ。
それはぜひ履いてみたくなりますね!
逆に、デメリットは何かありますか?
デメリット:足の保護機能はない
提供:ぺんちゃん
ランニングシューズと違って、足が剥き出しの状態なので、ぶつけたら血が出ます。
特にトレイルを走る場合には、木の枝や岩などの障害物が多いので、気を付ける必要がありますね。
たしかに。トレランの大会では、甲がきちんと覆われているシューズの着用が必須になっている場合もありますよね。
そうですね。ただ、このデメリットのおかげで「シューズを履いているときよりも、足元の状況への注意力が洗練されていく」とも言えるかもしれません。どこに足を置くべきか、前方に障害物はないか、瞬時に反応する能力を磨くには良いかもしれないですね。
ワラーチを自作してみよう!
ワラーチは、30分くらいで簡単に作れるのも魅力の一つだそうです。自分だけのワラーチが気軽に手に入るのは嬉しいですね!せっかくなので、作り方も教えていただきました。
用意するものはたったこれだけ!
撮影:RUN HACK編集部
まず、ワラーチの材料として必要なのは2つです。
【材料】
・ソール用ラバーシート(シューズの修理用として販売されているもの)
・パラコード(芯の入ったナイロン製のロープ。長さは片足分で2m)
次に、工具として必要なものが7つあります。
撮影:RUN HACK編集部
【必要な工具】
(画像の左から順に)
・千枚通し(細い棒状のものでも代用可)
・穴あけポンチ(幅は4mmくらい)
・ペン(鉛筆、ボールペンなど。黒いシートに書くときは白い水性ペンが便利)
・ライター
・ハサミ
・ヤスリ
・ハンマー
家にあるものや100円ショップなどで用意しても問題ありません。ただし、ハサミと穴あけポンチに関しては、ホームセンターなど、専用の工具を取り扱うお店で探した方が良いそうです。ハサミはソールをカットするために使うので、切れ味が悪いと断面がきれいに仕上がらない可能性があります。
1. 足を計測する
撮影:RUN HACK編集部
まず、ラバーシートに足を置いて、ペンで足型通りに線を引きます。採寸はジャストサイズで行いましょう。シートが足よりもはみ出ると、地面に引っかかってつまづく原因になります。
撮影:RUN HACK編集部
足型がとれたら、次にパラコードを通す穴の位置(3カ所)に印を付けます。
1つ目は、親指と人差し指の付け根の間です。
撮影:RUN HACK編集部
2つ目は、足の外側に印を付けます。位置はくるぶしの少し前くらいが目安です。
撮影:RUN HACK編集部
反対側も同じように、くるぶしの少し前くらいに印を付けます。土踏まずの頂点付近を目安にしても良いでしょう。
撮影:RUN HACK編集部
全て印を付けたのがこの状態です。指のラインがデコボコしてしまうので、カットしやすいようになだらかな曲線を引き、整えておくと良いですね。
2. シートをカットする
撮影:RUN HACK編集部
続いて、ハサミを使ってシートをカットしましょう。
撮影:RUN HACK編集部
ぴったり足型通りのソールが出来上がりました!
3. 穴をあける
撮影:RUN HACK編集部
次に、穴あけポンチとハンマーを使って、印を付けた3カ所に穴をあけます。
床が傷つく可能性があるので、何か緩衝材を敷くと良いでしょう。古雑誌などでもかまいません。
撮影:RUN HACK編集部
くるぶし側の穴をあけるときは、外側から7〜8mmほど間隔をとってください。近すぎると、シートが破れる原因となります。
撮影:RUN HACK編集部
3カ所の穴あけが完了しました。
4. パラコードを通す
次に、パラコードをラバーシートに通す作業です。
撮影:RUN HACK編集部
まず、パラコードを2m(片足分)にカットします。カットすると、中に糸が入っているので処理をする必要があります。
撮影:RUN HACK編集部
少しライターで炙ると、熱によって糸が固まり、ほつれなくなります。
撮影:RUN HACK編集部
千枚通しを使って、つま先側の穴にパラコードを上から通します。
撮影:RUN HACK編集部
下側に出てきたら、指でひっぱり出しましょう。
撮影:RUN HACK編集部
先端を一度結んで抜けないようにします。ハンマーを使って少し潰しておくと最初に履いた時に、足裏への当たりが少なくなります。
撮影:RUN HACK編集部
次に、紐の反対側の先端を、後ろの穴(足の外側)に上から通します。
撮影:RUN HACK編集部
下から出たパラコードを画像のように前から後ろに通します。
撮影:RUN HACK編集部
後ろのもう1つの穴(足の内側)に、上から通します。
撮影:RUN HACK編集部
後ろの2つの穴をつないでいるコードの間を、後ろから前に向かって通します。
撮影:RUN HACK編集部
以上で、紐通しが完成です。
撮影:RUN HACK編集部
反対側も同じように通してみましょう。
5. 結び方
次に、紐の結び方を説明します。ここでの説明は、全て左足の様子です。右足を結ぶときは、逆方向になるので注意してください。
撮影:RUN HACK編集部
まず、シートに足をセットします。
撮影:RUN HACK編集部
つま先側から、紐を締めていきましょう
撮影:RUN HACK編集部
緩みなくパラコードが足にフィットした状態です。
撮影:RUN HACK編集部
パラコードの先端を足の内側から足首に回していきます。反時計回りに4周ほど回しましょう。
きつく締める必要はありません。無理に引っ張らずに、優しく足にフィットさせます。
撮影:RUN HACK編集部
4周巻き終わったら内側に回し、かかと部分のコードに、下から上に向かって通します。
撮影:RUN HACK編集部
コードを通したのが上の画像の状態です。次は、足の甲側にコードを持っていきます。
撮影:RUN HACK編集部
足の甲部分の紐の外側から内側に向かって「くの字型」になるようにコードを通します(上から通し下から出す)。
撮影:RUN HACK編集部
画像のように「輪っか」を作ります。
撮影:RUN HACK編集部
指を入れて空間をあけるとやりやすいです。
撮影:RUN HACK編集部
コードの先端も輪っか状にして、先ほど作った穴に通します。
撮影:RUN HACK編集部
先端の輪っかが出てくる様子。
撮影:RUN HACK編集部
両側から引っ張り、固く結びます。
撮影:RUN HACK編集部
これで完成です!
撮影:RUN HACK編集部
右足も先ほどの手順と同じですが、方向は全て逆になります。
撮影:RUN HACK編集部
仕上げに、ヤスリを使ってラバーシートの断面を整えましょう。
【応用編】トレイルで使う場合は「ペレマット」を追加しよう
撮影:RUN HACK編集部
トレランなどで未舗装の道を走る場合は、路面の突き上げが多いため、もう一枚シートを追加することをおすすめします。追加するのは「ペレマット」という疲労軽減マットです。
これをラバーシートと同じサイズにカットし、ラバー用のボンドを使用して、上から貼り付けます。
撮影:RUN HACK編集部(ペレマットを貼ったワラーチ)
ペレマットを1枚追加すれば、トレイルの突き上げも問題なく走ることができるそうですよ。
ぺんちゃんおすすめの材料をピックアップ!
提供:ぺんちゃん
材料を自由に選べるのもワラーチの魅力ですが、ぺんちゃんが普段作成しているワラーチの材料を教えてもらいました。
初めての方は、ここから選んでワラーチ作りにチャレンジしてみましょう!
■ソール用ラバーシート
おすすめは次の3種類です。
①Vibram #08338(Vibram MORFLEX)
Vibram® MORFLEXは、EVA発泡材と天然ゴムをベースにした配合で、重さは従来のゴムの35%という超軽量素材です。
ITEM
ビブラムシート 8338
●サイズ:(約)縦13cm×横33cm×厚さ7mm
●カラー:ブラック、ブラウン
②Vibram #08365(Vibram MORFLEX)
ITEM
ビブラムシート 8365
●サイズ:縦14cm×横31cm×厚さ6mm
●カラー:ブラック、レンガ
③Birkenstock(ビルケンシュトック)スポンジ板
撮影:RUN HACK編集部
今回の試作で使用。
厚み:7mm
カラー:ブラック、ホワイト
■パラコード
パラコードのおすすめは2種類ありますが、ROTHCOのほうが柔らかく、ララムリの縛り方に向いているそうです。
①ROTHCO(柔らかめ)
ITEM
ROTHCO パラコード
●長さ:30m
●太さ:4mm
②ATWOOD ROPE 550(硬め)
ITEM
ATWOOD ROPE 550
●長さ:30m
●太さ:4mm
■ペレマット
トレイルランニングをする方は、こちらもチェック!
ITEM
イノアック ペレマット
●サイズ:300×300mm
●厚み:5mm
初めて使う人が注意することは?
ワラーチを自作したら、あとは走り出すだけ!でも最初はちょっと不安ですよね。そこで、ワラーチを初めて使う方に向けて、アドバイスや注意しなければいけないことを教えてもらいました。
まずはウォーキングから
出典:PIXTA
最初のうちは、絶対にスピードを出してはダメ。特に初めて使うときは、どれくらいの痛みが返ってくるのかわからないので、思っている以上に慎重になった方が良いそうです。まずは、散歩程度から、ゆっくり慣らしていきましょう。
10回くらいスピードを出す練習をして、皮が剥ける頃には、自分が痛くならないポイントがわかるようになるかもしれません。慣れていけばある程度のスピードも出るので、焦らずじっくり付き合って行きましょう。
最初は柔らかい路面を探す
出典:PIXTA
いきなり舗装されたアスファルトを走ると痛みが出やすいので要注意。最初は、公園や芝生の柔らかい場所を探して試してみるのが良いですね。
例えば、陸上競技場の横にあるような人工芝が僕のおすすめ。裸足に近い感覚で走れますよ〜。
走り方(フォーム)は気にしなくてOK
出典:PIXTA
ワラーチを履くときには、フォームを意識しすぎる必要はありません。「痛いところを痛いと感じながら走ること」が重要なんだそうです。痛みを感じることによって、膝や太もも、腰など、体全体を使って振動を吸収しようします。これが本来の体の使い方です。
ただ、最初は難しいと感じる方も多いかもしれませんね。うまく走る為のコツをぺんちゃんに聞いてみました。
着地よりも体が前に出てしまうと、結果的に水ぶくれ(マメ)ができる原因になります。しっかりと体の重心を捉えて着地することが大切です。例えば、ケンケンパや川の飛び石をジャンプするようなイメージで着地を行うと良いかもしれません。
痛みを感じたらすぐに走るのをやめる
出典:PIXTA
痛みを感じることは大切ですが、前提として、走るのに支障を感じるような痛みや違和感があればすぐにやめましょう。その上で、「小石を踏んだときのような心地良い痛みを感じながら走ること」をイメージしてみてください。
靴を履いていれば感じない程度の痛みですが、裸足では感じることができます。それを利用して、足全体、足の指1本1本で、大地を掴んで走っている感覚を覚えることが大切です。
ワラーチを履いて、長く強く走れる体づくりをしよう!
撮影:RUN HACK編集部
ワラーチは、人間の本来の力を呼び起こし、長くランニングを続けるための体づくりを助けてくれるアイテムです。ただし、私たちの体はランニングシューズに慣れているので、ワラーチでいきなり全力で走ると、逆にケガをしてしまう可能性もあります。少しずつ体を慣らし、自分の体やランニングフォームがどのように変化していくのか、楽しみながらトライしてみましょう!
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